眼科ヘルペスウィルス疾患
2014年05月20日 掲載
ウイルスとは細菌よりはるかに小さな構造体でラテン語の「毒」という意味を表します。種類も様々ですが人間の目にもいろいろな病気を引き起こします。人間の目の一番外側にある角膜にウイルスによって起される代表的な病気について説明してみましょう。
①角膜ヘルペス
単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus ; HSV)によって起る病気です。幼児期にほとんどの人はこのウイルスに気づかずに感染しています。数%の率ですがこの幼児期の初感染の時に、目の周囲の発 赤や皮疹を伴う結膜炎が起ることもあります。多くの場合は無症状ですが、体内のどこかの神経節にこのウイルスが潜伏しています。神経を伝わってウイルスが 動くため、潜伏した神経節から伸びている神経の支配領域の部分に、病変が現れます。顔面を支配する三叉神経節に潜伏していると、カゼや発熱、ストレス、紫 外線の影響、極度の疲労などが引き金となって活性化し角膜ヘルペスを引き起します。
角膜ヘルペスは30~40歳代の方に起りやすく、まずコロコロした目の異物感と充血が認められます。眼痛はあってもそれ程強くはありません。角膜表面の上皮に小さい混濁が生じて徐々に融合すると木の枝のような形となり、これを樹枝状角膜炎といいます(図1)。抗ウイルス眼軟膏を用いて多くの場合治り、視力障害も残りませんが、ウイルスが角膜の深い部分(実質)に及ぶと瘢痕性の混濁が残り視力低下の原因となります。
上皮のみに症状がある場合は上皮性角膜ヘルペスといい、深い部分に混濁を起す場合は実質性角膜ヘルペスといいます。混濁が強く視力が0.1以下になった場合は角膜移植が必要な場合があります。
②眼部帯状疱疹
水痘帯状ヘルペスウイルス(Varicella zoster virus ; VZV)による感染症です。多くの方は子供の時に水痘(水ぼうそう)に感染します。全身の発疹と発熱が起りますが、普通2~3週間で良くなります。しか し、このウイルスが体内の各所の神経節に残り潜伏します。病気や疲労などで体の抵抗力が落ちた時に活性化し、その神経の支配領域に(体の半身)に非常に強 い痛みを伴う皮疹が現れます。(帯状疱疹)胸や腹部によく起りますが、顔面を支配する三叉神経の支配領域に起ると目とその周囲に症状が現れます。
まゆ毛の周囲と鼻の皮膚に皮疹が出た場合は眼球にもしばしば病変を引き起します。年齢的には中高年以降に多く見られます。顔の半側のおでこ、まゆ毛部分、上まぶた、鼻の皮膚は三叉神経第1枝の領域でこの部分に病変が現れた場合を眼部帯状疱疹といいます(図2)。
眼球の症状としては角膜炎、強膜炎、虹彩炎など様々な症状が認められます。治療としては角膜ヘルペスと同様、抗ウイルス剤の投与と、角膜実質の混濁や眼内炎症に対してはステロイド剤が基本となります。
角膜ヘルペスと異なる点としては、抗ウイルス剤の十分な量を、点滴などで全身的に投与する必要があることです。
角膜ヘルペスも眼部帯状疱疹もその原因となる各々のウイルスは、成人ならほとんどの人の体内に潜伏しています。またこの2種のウイルスは、まれに非常に重篤な目の病気で、網膜が破壊されてしまう「急性網膜壊死」の原因となることもあります。角膜ヘルペスも眼部帯状疱疹も、その発症の引き金となるきっかけは同じで、管理不十分な糖尿病や長期の免疫抑制剤の使用など特殊なケースを除いても、極度の疲労、ストレス、紫外線暴露などで、どなたにでも起ることがあります。
体調管理を軽視せず、目やその周囲に違和感を感じたら早目に眼科受診することをおすすめします。